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25March13

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5月18日
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近藤嘉宏さんという、ピアニストのコンサートに行ってきましました。

いつもながらベートーヴェンの後期ピアノソナタ”がプログラムだった為で、私は近藤さんを全く知りませんでした。

先月、近藤さんによるベートーヴェンの後期ピアノソナタを録音したCDが出ていて、私は事前に入手して聴いています。

近藤さんは、CDジャケットの写真などを見ると、イケメンのピアニストなのですが、CDの私の感想はまだまとまっていないものの、

少なくとも、ルックスだけのピアニストではないことを感じて演奏会に赴きました。

 

演奏はとても良かったです。非常に知的で、緻密に響きをコントロールする演奏。

演奏が始まってすぐに、イケメンの優男的な写真の印象はCDを制作された方々によって作られたもので、

どちらかといば研究熱心で、見た目にこだわらない学者肌の演奏家だと感じました。暗譜で弾いているにも拘らず、

ルックスを壊すメガネをして弾くのは、指の動く鍵盤上の情報を逃さず捉えたいからのように思えました。

 

ともかく、ヘビシュタインという楽器の効果なのかは私にはよくわかりませんが、

響かせて重ねる音と、対位法を生かすために短く響きを切る音との間のバリエーションが豊かで、また余韻を計算に入れた間合いが絶妙で、

テンポの扱いなども表現したい方向によって自在に変化させ、それぞれのパッセージを印象的に聴かせてくれる演奏でした。

タッチの工夫による微妙なコントロールによって豊かな音色が出てくるのだと思いますが、

ヘビシュタインというピアノは、その微妙なコントロールに応えて特に中音域で響きの違いを表現してくれる楽器のように感じました。

(30番の3楽章の変奏では、まるでパイプオルガンのストップ(音を変えるボタン)を変奏毎に切り替えているかのようでした。)

 

褒めてばかりでは芸がないので、難点を挙げるとするなら、彼の演奏は表現を豊かにするタッチなどの表現の引き出しの多さが魅力の一方で、

決してマッチョな超絶技巧派ではないようで、畳み掛けるような速いパッセージのところでは、高確率でミスをおかしていました。

本来なら畳み掛けて曲の厚みを出したいところでミスを補うために表現を弱く抑える必要があるところが2〜3か所あったように思えます。

ですが、それらは大した問題ではなく、彼は十分に魅力的なピアニアストで、ビジュアルだけでなく、もっと注目されていいと思います。

 

独自の解釈で曲を組みげる知性があり、それを具体化する技量を備えていると思います。

アンコール曲の選択バッハのコラール前奏曲 BWV659からもストイックな性格が読み取れ、大いに好感を持ちました。

 

ただ、いわゆるウケの良いピアニストとして大いに名を馳せるには、そのストイックさが足を引っ張るかもしれません。

バレンボイムのような、劇的な表現を演出する(起承転結をドラマチックに強調する)ことに関心はなさそうです。

そうしたところにも私は好感をもつのですけれども。

 

※今回のスケッチは、猫シリーズの初の商品化の試みで、藤沢さいか屋6Fの「あうん」にて販売中です。

水彩(15cm×15cm)の小品3点で、もちろん各一点限りのオリジナルです。